- 過去にも世界各地から豪華アクトが出演してきたエレクトロニック・ミュージックの祭典electraglideは今年で第9回目。今回はワン・フロア内の両サイドにステージが設けられ、出演者が転換の時間なく交互に演奏を開始する朝までノンストップのオールナイト・パーティーとなった。また、インディー勢などとのクロスオーヴァーによりダンス・ミュージックの枠内では語りきれないアーティストが続々台頭する昨今の気運を反映し、ここには例年以上に多彩なジャンルを横断したエレクトロニック・ミュージック・シーンの今を伝える精鋭が集結。国も世代も多岐に亘る「この多様性を楽しめ」と言わんばかりのラインナップは、electraglideが時代と共に変化していることを伝えるかのようだ。
- 20:30 - 21:15『NOSAJ THING×真鍋大度×堀井哲史×比嘉了』
- まずトップ・バッターとして登場したのは、フライング・ロータスらを輩出したLAビート・シーンのもう一人のスター、ノサッジ・シング。今回は新作『Home』からのシングル「Eclipse/Blue」のPVを手がける他、Perfumeのライヴ演出なども担当する真鍋大度を筆頭に、堀井哲史、比嘉了といった気鋭のクリエイターがVJを務める、昨年で言えばアモン・トビンによる『ISAM』再現ライヴやLayer3を使ったフライング・ロータスの3D仕様のライヴ、もしくはかつてのクリス・カニンガムのステージにも通じる音とヴィジュアルのコラボレーション・セットだ。黒のTシャツに黒のキャップをかぶったノサッジがステージに登場すると、彼の手元を映した映像にカラフルなポリゴンや図形、宇宙的なイメージが重ねられ、前作以上にリスニング作品としての魅力を重視した新作『Home』収録曲を中心にセットを立ち上げていく。その姿はまるで、せわしなく動く彼の手元で音が紡がれていくドキュメントのようだ。中盤からは徐々に音圧を上げ、フライング・ロータスの「Camel(Nosaj Thing Remix)」や「Getting There」、ザ・エックス・エックスの「Islands(Nosaj Thing Remix)」なども披露。音と映像が魅力的に手を取ったライヴでまだ早い時間帯の会場を盛り上げた。
- 21:15 - 2:15『FACTORY FLOOR』
- 続いて登場したのはロンドン発の3人組、ファクトリー・フロア。LAビート・シーンのドープな魅力を伝えたノサッジ・シングに対して、彼らはアンディ・ストットやデムダイク・ステアらと共に昨今盛り上がるポストインダストリアル・シーンの熱気を伝える存在だ。3人はDFAからリリースしたデビュー・アルバム『Factory Floor』のジャケットなどを模した映像を背に、ガブリエル・ガーンゼイ(Dr)がステージ最前面に陣取り、向かって右側に紅一点のニック・コルク・ヴォイド(Vo、G)、ステージ奥にドミニク・バトラー(Key、元B)が並ぶ変則的なセットでライヴを披露。この頃には観客も続々と会場に到着し、持ち前の冷たく機械的な音を推し進めてハード・ミニマルとも言える境地に辿り着いたデビュー作の楽曲を中心に、不機嫌なパンクのアティテュードをまきちらしてオーディエンスを湧かせていった。元々はジョイ・ディヴィジョン直径のゴシックなインダストリアルを鳴らしていただけあって、彼らは2012年のフジロックでのステージ同様、ライヴでは生ドラムを使用。延々と反復されるミニマルなビートに乗せて、音源以上に振り切れた爆音が耳に迫ってくる。中盤〜終盤にかけては代表曲「Fall Back」も披露。まるで全編地続きのロングセットのようなライヴでオーディエンスを恍惚の彼方に連れて行った。
- 22:15 - 23:15『MACHINEDRUM』
- シンドローン、セパルキュア、ジェッツなど様々な名義を使い分け、昨今ではポストダブステップ〜ジュークに接近するばかりか、その延長上にあるジャングル再評価の潮流にも踏み込んで刺激的なビートの実験を続けるマシーンドラムことトラヴィス・スチュアートは、9月にリリースされた新作『Vapor City』を引っさげての来日。ニンジャ・チューン移籍後第一弾となるこの作品は、彼がNYからベルリンに引っ越す際に頻繁に夢に見たという架空の街をテーマに制作、それぞれの曲は街の一区画を表現しているというトータル性を持った作品で、「今回のライヴもその雰囲気を反映したものになるのでは?」と思いきや、マシーンドラムにそんな野暮な話は禁物だった。というのも、今回のセットはClub Setと題されていて、全編は汗が飛び散るような彼らしいパワープレイの連続。爆音で次々に投下されるトラックはもはや真っ向からドラムンベース〜ジャングルで、そんな破壊力抜群のビートの上で、時おりエレクトロニカにも通じる繊細な電子音がうっとりするような軌道を描いていく。途中マイクで観客を煽りながら、終盤には新作収録の「Eyesdontlie」などを披露。ファクトリー・フロアが温めたフロアを一気に爆発させた。
- 23:15 - 00:15『SHERWOOD & PINCH』
- ノサッジ・シングやマシーンドラム、そしてシャーウッド&ピンチ、ジェイムス・ブレイクらが登場する前半は、まさに英米のベース/ビート・ミュージックのショウケースといった趣き。中でもこの彼らが見せた、身を震わせるような重低音の強度と言ったら! On-Uの総帥としてUKダブを牽引する生ける伝説と、ダブステップ第2の故郷=ブリストルの看板アクトが、それぞれが主催するイベントで親交を深めて始めたユニットは、4月のSonarSound Tokyoぶりの日本公演。その際にもベスト・アクトの一組との呼び声が高かった彼らだが、今回はマシーンドラムによるリミックスなども収録した最新EP『Music Killer』を発表しての来日となる。そもそもピンチは10歳の頃からシャーウッドのファン。モノクロの映像をバックに20歳以上も歳の差がある2人が卓に並び、地を這うようなベースと硬質のビートでサイケデリックなベース・ミュージックを繰り出す姿は、ユニットというよりもむしろ師弟と言った方がしっくりくる。セットは「Music Killer」などを挟み、「Bring Me Weed」では一転レゲエ調に変わってフロアから大歓声。目の前でUKのクラブ・ミュージックの歴史が継承されて行くような、圧巻のステージを見せてくれた。既にアルバムを出すには十分な曲数を制作しているという彼ら。リリースを楽しみにしないというのは無理な話だろう。
- 00:15 - 01:30『JAMES BLAKE』
- さて、続いてはベース/ビート・ミュージック系のアクトが続いた前半のハイライトとして、今回のヘッドライナー、ジェイムス・ブレイクが遂に登場!!やはり彼への期待は大きかったようで、登場前からじわりと熱気を帯びた会場は、ジェイムスを筆頭にしたお馴染みのライヴ・メンバー3人が姿を現わすとこの日一番の大歓声に包まれる。 そもそも、2011年の初来日、2012年のフジロックに続いて、6月にも新作『Overgrown』を引っ提げてのツアーを行なったジェイムスだが、そのどれかを目にした人でも、「Life Round Here」の中盤から一気に音圧が上がった時点で、今回のライヴが特別であることが分かったはず。というのも、彼らは基本的にライヴのリハーサルを行わず、ツアーの本番中に楽曲をどんどん変化させていく。加えて今回のライヴはワールド・ツアーのファイナル。つまりこの日のライヴは、2作目リリース以降の集大成だ。 実際、この日の変貌ぶりは目を見張るものだった。前回来日時には「The Wilhelm Scream」で顕著だった四つ打ちのハウス仕様になる瞬間が、今回はより多くの曲において急増。それが彼のトレードマークとも言える重低音ベースやソウルフルな歌声の魅力をよりダイナミックに引き立て、シャーウッド&ピンチから引き継いだフロアの熱気をまた違った形で次に繋いでいく。演奏のキレこそ6月の公演に譲るものの、規則的に積み上げられた27個の照明をバックに、「CMYK」「Limit To Your Love」「Voyeur」「Retrograde」などで次々に怒濤のエレクトロ・ジャムへ突入する姿はまさに圧巻の一言だった。その後は一度機材トラブルで中断するも再開すると歓声に包まれた「The Wilhelm Scream」を経て、終盤近くまでほぼアカペラ(!)で披露した「Measurements」で終了。彼のライヴ史上最も踊れるセットでありながら、同時にエレクトロニック・ミュージックのフェスとは思えない静謐な瞬間があり、ジェイムスはその両方を自在に行き来してみせる。言ってみればelectraglide史上に残る異空間で行なわれたライヴは、しかし終演後も大歓声を引き起こしていた。ソウルとダブステップ/普遍と先鋭を横断する現代のスターの実力と、その先に広がる無限の可能性を垣間見せるようなステージだった。
- 01:30 - 02:45 『2maniydjs』
- さぁ、ここからは夜明けに向かうノンストップのパーティー・タイムの始まり!マッシュアップの帝王トゥー・メニー・ディージェイズは、いわば曲のハイライトだけを繋ぎ合せることで延々ピークタイムを持続させる、まさにどこを切ってもひたすら躁状態のライヴ。今回もマッシュアップされた作品のジャケットがスクリーンに映し出され、それが音に連動して動くという、ここ数年の彼らのライヴでは定番となっているオーディオ・ヴィジュアル・セットを引っ提げての来日となる。事前に映像を用意する必要があるためアドリブこそ効かないものの、映像とリンクした遊び心満載のステージは、何と言っても理屈抜きで楽しい、踊れる。このタイミングでいよいよ踊り狂った人も多かったことだろう。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、大歓声で迎えられたMGMTやダフト・パンク、ジャンゴ・ジャンゴ、ボーイズ・ノイズ、Mr. オワゾー、ジャクソン・アンド・ヒズ・コンピューターバンド……と次々に繰り出される楽曲が変わるたびにフロアからも矢継ぎ早に歓声が上がり、ジェイムス・ブレイクのセットに耽溺した観客を強引にダンス・モードへと引きずりこむ姿はやはり貫禄の一言だった。マッシュアップの人気を決定づけた傑作『As Heard on Radio Soulwax Pt. 2』(2002年)から10年強。いよいよベテランの域に突入しつつある彼らによる横綱相撲は、YMO「Rydeen」の藤原ヒロシによるエディット(『MEGA MIX』に収録)で大団円を迎えた。
- 02:45 - 03:55 『!!!』
- いよいよ夜が深まってきたものの、会場の熱気はまだまだ上昇。大ネタのマッシュアップでとことん踊らせたトゥー・メニー・ディージェイズに対して、汗がほとばしるような人力グルーヴを繰り出したのが、ワープ所属、米サクラメント出身のチック・チック・チックだ。electraglideには09年以来4年ぶりの出演。これまで以上に作品としての完成度に焦点を当て、しなやかなファンク〜ディスコ・グルーヴを手に入れた新作『THR!!!ER』を引っさげて、7月の単独公演以来の来日となる。中盤まではその新作収録曲「Californiyeah」などで深い時間に突入したフロアを揺らすと、以降もねばっこくミニマルなグルーヴに乗って短パン姿のニック・オファーがステージ中央でお馴染みのダンスを繰り出したり、両サイドでフロアを煽ったり、メンバー3人で振り付けを揃えたりしながらアホみたいに踊りまくるという未曾有のチック・チック・チック・ワールドへ突入。とはいえ「One Girl/One Boy」などでは持ち前の踊れるグルーヴはそのままにより成熟した姿を見せるなど、バンドとしての洗練も随所に感じられる。最後は「Yadnus」などを経て「トーキョー、ラスト2曲だ!」と会場を煽りながら「Heart of Hearts」「Slyd」を連発。フロアに合唱を求めつつ、終始熱気溢れるライヴを展開した。
- 03:55 - 05:10 『MODESELEKTOR(DJ SET + 909)』
- 続くモードセレクターは、自身のレーベルを立ち上げてリリースした『Monkeytown』を引っさげ、IDMをベースにヒップホップやベース・ミュージック、エレクトロ、テクノなどをひたすらぶちこんだ雑食性溢れるサウンドを展開。セバスチャン・シャーリーがマイク・パフォーマンスを駆使して観客を煽り、ゲアノット・ブロンザートは黙々とビートを構築。「トキオー、ジャパーン」と呼びかけると会場は「イエーイ!」と大歓声で、朝の4時半とは思えないテンションで会場をガンガン上げていく。圧巻は何と言っても終盤で、自然に生まれた観客の手拍子を受け「Take off your G-String」から「Blue Clouds」に移行すると、フロアの全員を座らせて掛け声と共に一斉に立たせるといったパフォーマンスも。観客の心をしっかりと掴むライヴ巧者ぶりは、今回の出演アーティストの中でも随一と言っていいだろう。最後まで観客をのせまくり、徐々に明け方へと向かう会場に、この日何度目かのピークタイムを作りだした。
- 05:10 - 06:40 『THEO PARRISH』
- そしてここまで出演した総勢8組からバトンを引き継いでラストを務めたのは、ディープ・ハウス、ディスコ、ジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップを飲み込んでデトロイトの黒いハウスを鳴らすセオ・パリッシュ。長時間に亘って行なわれたこの日の全てを祝福するようにディスコからソウル、ハウスまでを縦横無尽に駆け抜ける彼のセットは、まるで音楽への愛や畏敬の念をDJセットとして具現化したかのようだ。時おり朝日が差し込む会場で、10時間以上続いたフロアでの現実離れした熱狂を、これから戻るべき日常へとじっくりした足取りで繋いでいく。その美しさ、素晴らしさと言ったら。例年以上にジャンルもスタイルも多岐に亘った今回の出演アクトがそれぞれの方法でシーンの今を表現していたとするなら、彼はイベントの最後に、そうした音楽を生み出すこととなったダンス・ミュージックの根源的な歴史、魅力、もしくは普遍性のようなものにまで手を伸ばしていた。結局セットを約1時間も延長し、このスペシャリストは華麗な手腕で連綿と続く音楽の歴史を横断。ラストを見事に締めくくってみせた。
photo:Masanori Naruse / Tadamasa Iguchi / TEPPEI / 宇宙大使☆スター